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「世界文化遺産」地域連携会議 地方自治体実務者勉強会

 

2012年2月20日(月)15:00−17:00、京都市役所本庁舎F会議室

  内容:@「世界文化遺産」地域連携会議の活動状況について(資料1)

      A国への要望活動について(資料2・3・5)  Bイタリア世界遺産特別法について(資料4)

 

 

 司会(井戸:お世話役)

 (主旨説明)

本日は年度末や議会でお忙しい中、また遠路からお運びをいただきまして誠に有難うございます。

本来ご出席を予定されておりました廿日市市さん、また奈良市さんが残念ながらお越しになれなくなってしまいましたが、本日は宗田幹事、九州大学の河野先生を始め、8つの自治体から15名の実務者の皆さまにお集まりいただくことができました。まずもって御礼を申し上げます。

さて、6月に会が発足しましてから悪戦苦闘しつつ各種作業を進めて参りましたが、今回が初めて自治体実務者会議です。今日は最初の1時間ぐらいで会のご報告とか情報内容のいま考えている時点のお話とかをさせていただき、それから約1時間、河野先生の講義と質疑応答ということにさせていただきたいと思います。確たる結論を得て帰るというものにはならないかも知れませんが、まず世界遺産法なるものの勉強を始めるというのと、今後の会の活動も含めまして、大まかな方向性が打ち出せれば、会議としては成功かなという風に思っています。

 

 (自己紹介)

 京都市・北村(文化財保護部・部長)

日本にある世界文化遺産の横の連携という今までなかったそういう仕組みを昨年井戸さんがお考えいただいて、昨年6月に立ち上がったところで、この会がどういう方向に向いていくのかということですが、それぞれ地域の置かれている状況が違うかと思いますので、その辺の共通的な部分を探し出し、せっかくの連携会議ですので何か実りあるような活動ができたらいいなというふうに思っています。


  同・砂川(観光企画課長)

京都は観光客が5000万人の都市ですが、この会を通して世界遺産の魅力をさらに磨き、またいろいろな地域の方と連携することで、観光面で何ができるかをいろいろ探ってまいりたいと思っています。

 
 同・北田(文化財保護課長)

私どもの古都京都の文化財が指定、登録されてから早20年ぐらいたとうかということになっておりますけれども、当時、私もまだ係員で文化庁とかそれと各所有者の方々とずっと渡り合って、かなり苦労した思い出がよみがえってきます。が、今までこういう個々、個々での活動はあったのだとは思いますけれども、まとまって何かやりましょうというのはあまりなかったかと思います。これを機会にまた皆様方とお近づきになり、いろいろ情報交換とかをさせていただければと思います。

 
 同・藤内(文化財課)

今度11月に世界遺産40周年記念の最終会合が京都で行なわれるということで40周年を検討させていただくことになっています。よろしくお願いします。

 
 白浜町・中尾(商工観光係長)

 和歌山県の白浜町からやってまいりました。世界遺産については熊野古道ということで霊場と参詣道の三つ、和歌山、奈良、三重とまたがっているが、三つの県が話し合う場ができればいいというふうに考えています。

 
 同・山中(観光課主任)

 大辺路協議会という任意団体の事務局を担当しています。熊野古道の大辺路ルート、こちらのほうにつきましても世界遺産の一つとして売り出していきたいと考えてございますので、今日はいろいろ学べたらなと考えています。


  姫路市・岡田(城周辺整備室長)

 姫路城の改修を担当しています。現在、大天守の修理をしており、50年ぶりの大修理ということで工事エリアに常時見学施設を設けましてやっています。50年に一度しか見られない工事ですので、皆さんにも是非ご覧いただきたいと思います。

 
 同・福永(文化財課長)

 姫路市の場合は城郭整備室がいわゆる事業、具体的なお城の修理や、そういう工事関係も含めての担当。教育委員会のほうでは世界遺産関係、それからいわゆる規制関係、保存管理計画部分、そういう部分を担当してすみ分けをしています。

実は今年は世界遺産条約40周年ということもありまして、いろいろと話のほう、文化庁からこちらにも話があったりとかしています。40周年が終わりますと年明けは姫路城の20周年担当ということで、これから恐らく各市町村で20周年イヤーがスタートだということもありまして・・・そういうことで情報の交換ですとか教えていただけることがありましたらと思ってやって来ました。

 
 東紀州観光まちづくり公社・杉下

 三重県の東紀州観光まちづくり公社(県・熊野市・尾鷲市などにより構成)からまいりました。三重県は伊勢神宮から熊野三山のほうに伊勢路という世界遺産と、あとは獅子岩や花窟(はなのいわや)という神社があります。私も語り部さんがいるのですけれども、お客さんを案内する時にちょっと人出が足りない時はピンチヒッターでガイドなどをやっています。よろしくお願いいたします。

 
 南砺市・浦辻(文化課長)

富山から来ました。白川郷と五箇山の合掌集落のうちの五箇山の相倉と菅沼の集落の保存を担当しています。かやぶき屋根のふき替えは15年に一度ですが、片方の屋根をふくだけで800万円とか500万円とかというような経費がかかります。毎年毎年多額の予算を文化庁からいただいているわけですが、その他にもお金のかかることがいろいろありますので、この会のほうでもいろいろと勉強させていただきたいと思います。

 
 島根県・若槻(文化財室長)

今日はオブザーバーとして参加させてもらいました。石見の場合は他の世界遺産とは多少違い、まったく無名であったり、山間部にあったりというふうな、観光地でないというふうなところから出発しているので、最初からいろいろな課題を抱えています。その課題を解決していくためにはもうちょっと違うやり方というか、新たな法則というのが必要だというふうに感じている所です。

 
 斑鳩町・関口(観光課長補佐)

 奈良県斑鳩町には法隆寺という一番最初に世界遺産に登録されたものがありますが、そのおかげで以前から観光客にはたくさん来ていただいています。しかし、なかなかお寺とか、それからあと観光事業者、商工業者との連携とかが図れておらず、経済効果がほとんど見いだせていないような状況にあります。今回こういった会議に参加させていただくことにより、世界遺産を生かしながら、いかに経済効果を得られるような取組みができるかということを、他地区の状況とかをお聞きして参考にしたいと思っています。

 
 大津市・山口(観光課長)

隣の町の大津市でございます。世界遺産・比叡山延暦寺、これが大津市にあるというのはあまり知られていません。

 インターネットで京都駅から比叡山を検索しますと面白い現象が起こり、比叡山坂本駅という大津市の駅に下りていただいて徒歩55分と堂々と出ますので、すごいところだなと、何とかならないかなということをちょっといまうちの観光協会とあれ恥ずかしいなと、そういうこともありまして皆さんの先進的なご意見をいただければと思います。よろしくお願いします。

 
 司会 それは京都のほうから行くなということですか。

山口 いや、平日は(滋賀側の駅からケーブルカー駅までの)バスがないのです。

司会 ああ、そういうことですか。

  山口 だから、ケーブルが両方アクセスルートに入っていないので、出ないということです。この間、びっくりしました。 

 

 司会(資料1説明)

 6月の発足以来の活動につき簡単にご説明をさせていただきます。発足からまだ半年強ということですが、メンバーをもう少し充実していくといいますか、世界遺産のメンバーならもうこのメンバーで9割以上固まっているよねというかたちにもっていきたいという思いがございまして、逐次、メンバー増強をおこなっています。まず、役員関係では前のユネスコの事務局長をされていました松浦晃一郎さんが会の顧問になっていただける旨、内諾をいただいております。それから、新しく世界遺産の登録をされました平泉町さんのほうにお声掛けをさせていただきまして、平泉町長さんも幹事になっていただきます。

次に未加入地域については紀伊山地の高野町、新宮町、新宮市、田辺市、それから沖縄では残り二つ、南城市、読谷村、これらに関して入会アプローチをしています。

 それから、民間のほう、また県のほうからも入れてくれというようなご要望がいくつか来ていますが、会員、メンバーが推薦した人はメンバーになれるということで、現在は行政のご担当者含め133名ぐらいの会になっています。

 

・各地域の訪問、交流会等ということで、市町村訪問を20ぐらいの市町村に関してはこの会発足以降させていただきました。地域の民間も含めた交流会については、まずみんな仲良くなるのが第一ということで11の地域で開催をしました。

また、メディアと交流会をやろうということで、これは特に奈良市のメンバーの方が中心になって十いくつのメディアがお集まりくださり交流会を開いています。

それぞれのイベントに協力し合おうではないかといったことの第1弾としては、昨日一昨日と斑鳩町さんに頑張っていただき、また各地にご協力をいただいて、斑鳩市(いち)というところにブースを設けていただき、ゆるキャラを出展していただいたり、パンフを配ったり、交流会を開くなどのことをしていただきました。

 

・次に、最低限の資金獲得をしようということで、本年度は一応、歴史街道推進協議会を通してですが、250万円ほどの予算が取れました。今後はできれば会として当然単独で予算を取っていくということが理想ですが、今年については会の発足が6月ということで申請等が間に合わなかったということです。

・その資金を活用し、今回の会を含む研究活動、11言語のホームページ、パネルやパンフレット類、観光ゴミ持ち帰り運動用ステッカーを制作中です。11言語は日英、中が二つ(簡体・繁体)、韓国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ロシア。写真については世界遺産写真家の富井さんというメンバーの方の写真を使わせていただき、写真と言語数、それと各地へのリンクは結構いい感じになっていると思います。もう一つ工夫したのは12地区を羅列するのではなくて、日本史の流れに沿ってやったらどうかというアイデアが民間の方からありましたので、日本史の流れの順番に大まかに12地区の説明を読んでいただくと、だいたい日本というのはこんなふうにできてきたのかということが分かるような、そういうところに工夫を加えています。

・観光ゴミの持ち帰り運動についてはまた会としての議論もしないといけないんでしょうが、とりあえず観光ゴミをできるだけみんな持って帰っていただけるようにというステッカーも作っておきました。

 

・当面の課題は、一つは要望内容の研究。今日がそのキックオフの日ということになります。要望活動はできればもう来年度、遅くてもその次ぐらいにはしていかないといけないと思っています。

・もう一つは世界遺産条約40周年の会が今年、京都で開かれる。またその分科会的行事が姫路、そして富山、そして紀伊半島、和歌山で開かれるということを聞いています。理想としては、日本はこんな会まで作ってなかなかやっているなというところぐらいは世界のお歴々にご理解いただけるようなものにしたい。アイデアレベルでは展示とか、ドアプライズ商品を各地から出していただいてパーティーの時に使ったらどうかとか、広告をしたり、お土産を作ったり、ゆるキャラを集めたり、関空でレセプションデスクを設けたり、いろいろなものが出ていますが、お金の関係もあるので、どれができるとはまだ言えない状況です。ただ、いろいろなアイデアがある中でこれとこれができるかもねというものをやっていければと、無理のない範囲でというふうに思っています。

2012年度の総会というのを開かないといけませんが、これも形式ばって手間ばかりかかるものになっても仕方ないと思っています。何とか皆さんにお集まりいただきやすい機会ということを考えると、要望活動を今年度でできるなら、東京のほうでその時に合わせてやるのも一つでしょうし、あるいは、ユネスコ会議の折に皆さんがお集まりになられるようでしたら、京都のほうでやるのもありかなというようなことをいま思っています。

 

 (資料2―5説明)

・資料2は6月の総会の時にもお出ししたものです。国の要望内容に関してどんなことがしたいですか、また地域にどんな問題がありますかということでお問い合わせをした分です。

で、ここに出たご意見を何とか曲がりなりに私どもの中でまとめましたのが資料3。一度たたき台を出し、いくつかご意見いただいた分をこちらの中に盛り込んでいます。今の要望活動というのは役人にするだけではなくて、やはり政治家の方々にもご認識いただかないといけないという側面が強くあるので、世界遺産のことを何も知らない人にも「いろいろな問題があるのだな」ということが分かっていただけるように、できるだけ事例を入れて作りかけています。

1点目は世界遺産の防災力の強化で、これは総会でも話題になった点。2点目は世界遺産等を活用した外国人観光客の誘致ということでございます。観光予算はいまゼロでございますので、ゼロを何千万円かにでもしてもらえば、本当にいろいろな活動ができます。3番目は世界遺産法の制定を目指してという項目をここの段階では立てています。一つは文化財に関する十分な予算の確保。そして二つ目はバッファゾーンも含めた時の横串や施策の一体感の話。三つ目は文化庁だけの世界遺産になってしまっているのではないかというようなこと。四つ目はきめ細やかな支援策ということで、200万円以下のものが補助対象にならないとか、住民のボランティアによって支えられているが、これでいいのかというようなことを書いています。

そして、第4項目目としては、紀伊半島及び日光への復興の支援ということを入れています。

 

・どのようなかたちの要望書を作るのかはこれからの課題ですが、共通要望以外に地域からのご要望が多ければ、そのためのページを作るということも考えられようかと思います。

・要望項目もこの四つに限らないし、四つの順番もいろいろ考えられます。事例としてもっと適切なもの、抜けているものもあると思います。今日ご意見もいただきたいと思いますし、できればこれを皆さんの手で真っ赤にしていただいて、それをもう一度私どものほうで編集し、こんなものでどうですかというような形ではからせていただきたいと思っています。ただ、そうしょっちゅう集まるわけにもいかないので、できるだけメールなり、電話なりのやり取りで皆が納得いただけるようなものにしていきたいなという中でのタタキ台が資料3です。

 

・それに関連し資料4は世界遺産のイタリアの特別法にはどんなことが書いてあるのかという翻訳資料です。

・資料5は国への要望なり意見、情報でその後に出てきたものについてこちらでまとめています。姫路、沖縄、紀伊山地、石見、平泉や県の関係者から新たに出された内容、情報はここに取りまとめられています。

最初は姫路市からバッファゾーンに対する法的な裏付けがないのが問題ではないか、横串を刺すような法整備が必要ではないかというようなご指摘。

那覇市からは世界遺産である玉陵(たまうどん)等々はそれなりの支援をされているけれども、やはり世界遺産としての日常の維持管理費及び補助対象外となる200万円以下の修繕費の予算措置を要望しますということです。保存管理計画の策定、世界遺産周辺の案内板等々の整備、ガイド、人材の育成というようなことが問題になっていますというふうな情報も寄せられています。

紀伊山地の天川村からは観光活用だけではなく、登録意義の再認識や広報・安全について協力して国に働きかけていければというようなご提案が出されています。

 大田市からは600を超える採掘の跡や試掘の跡が確認されているが、地表の地盤が弱く、落石や崩落の危険性が指摘されているという情報が寄せられています。予防治山事業等々の事業があるわけですが、採択されない事業があるということ、それから、補助率の不統一、整備水準の不統一が問題となっていますというようなことでございます。それから、町のほうの調査についてはやることはやってきているわけですが、やはり一括して解決できる事業制度の財政支援が必要ではないかというようなご指摘であります。

平泉町からは世界遺産委員会の決議に伴い発生した報告、事務や研究調査、計画策定の遂行に関して国からも更なる財政支援を求めたいと、そちらが言ってきたものを全部こちらの負担なのかということかもしれません。

・以外に各府県のメンバーからもご意見をいただいておりまして、三点ほどに大きくまとめられると思います。まず、特別法を考えるのであれば、古都保存法のように世界遺産のコア、バッファゾーンがきちんと都市計画、地域計画上に位置づけられるようなものにしなければいけない。現状ではその位置づけがないため、例えば、そういったゾーンでは暮らす住民の説得に苦労しているということです。

 二点目としまして、自然遺産と環境教育の関係に比べ、文化遺産はその継承のための教育や人の心、人づくりの面で大きく後れを取っている。例えば、小学生に教育の一環で歴史ガイドをさせて成功させている地域などが出てきているので、今がチャンスではないかということです。

 三つ目は、観光に関してですが、日本ほど移動のしやすい国はない。青森から鹿児島、ほどなく金沢を結ぶ新幹線を最大限に活用した世界遺産めぐりを通して観光立国を実現すべきではないかと、そんなご意見、ご要望が出てきているということでございます。

資料のご説明のほうは以上でございます。

 

 
 (議論)

司会 では、宗田幹事の方から、議論の口火を切っていただけますか?

 
 宗田(京都府大、会幹事)

・井戸さんとは歴史街道推進協議会でもうかれこれ20年近く付き合いがあり、世界遺産特別立法のお話はもう半年以上前にこの会を作る時にこの会の一つの取組みとして提案させてもらいました。私がイタリアの世界遺産特別法を取り寄せてすぐ井戸さんに送ったら、井戸さんのほうでいまここにお手元にあるような翻訳を作ってくれました。仕事があまり早くてちょっと驚いきましたが、業者の方がおやりになったので、いまパラパラとめくっているとちょっと違うぞみたいなところがありますね(笑)。

・まずこのイタリア世界遺産法ですが、ご承知のようにイタリアでも政権交代があります。文化省の大臣もころころ替わり、世界遺産に熱心な人とそうでない人が替わる。部局、下の幹部も替わるわけですが、予算も当然変わる。そうすると世界遺産当然登録は1年、2年でできないので、5年とか6年というスパンで安定した予算供給をしてもらわないと困るというこの法律を文化省がしっかり用意して、根回しをして何とか通ったという経緯があります。日本でも、この世界遺産をもう少し国民的な議論にしていくということが必要だなと思っています。

・特にバッファゾーンの取扱い。もはや文化財保護法だけで世界遺産登録ができると思っている人は誰もいないわけで、京都でも条例も含めて都市計画法とか古都保存法を適用しているし、景観法、歴史まちづくり法とかができてきたというのをこの世界遺産のためにフレームの中でどう使うかということもできてきていません。この辺も世界遺産に登録したいので自治体のほうはあまり文句を言わずに今までずっと唯々諾々と従ってきたのですが、そろそろある程度考えていかないとこれから先がないぞという状況になっている部分があります。

・もう一つは1992年に世界遺産条約を批准し、文化庁さん、環境省、それぞれにこの20年間でずいぶんいろいろなやり方を変えてきた訳です。石見銀山、それから平泉の時が大変よく話題にはなったのですが、最初に法隆寺、姫路をやったり、それから、ここの京都市をやった時というのは文化庁の担当者がもっと汗をかいていた。しかし、いつのまにか特定業者に大きな金額で出さなければいけない、その費用を自治体に戻す、という感じになっている。それぞれこういうことに自治体が公費を使うことに関しては私個人的にはいろいろな思いを持っていて、20年の間になぜこんなに予算が膨らんだのかということに関して非常に疑問を持っています。

業者のことはともかくとして、この20年の間にこうして変わってきた今のかたちが本当に妥当かどうかということを実際に皆さんが一堂に会して議論する場というのは絶対要るのだろうと思っています。

 

  (世界遺産特別法、文化財保護に関わる各地の課題)

  司会

 若槻さん、各府県の文化財担当者の間でも「やはり特別法のようなものが要るんではないか」といった議論が出ているそうですが・・・。

 若槻

20年前と今と本当に世界遺産登録自体の、それから、保全管理に対する世界遺産委員会の考え方そのものがかなり変わってきていて、もう簡単に言えば非常に厳しくなっているというか、特にバッファゾーンの取扱いとか、そういったものについても、最初は登録する時はわりとそれは軽くやっていけばいいのかなという感じでしたが、どうもそうではない。最近の議論を見ているとかなり厳しくなってきたということであれば、もともとの考え方そのものからかなり変えていかないといけないように感じています。

 司会

 姫路市さん、特別法に関して何かありましたら。

 福永

特に課題として出てきているのが市街地中心部の特別史跡地をそのままコアゾーンとして登録したということと、実は姫路城跡の800メートル南がJR姫路駅になっており、ここがいま高架化に合わせての再開発をしているという点です。そこから幅員50メートルの大手前通りが1本、ちょうど駅と史跡地をつなぐというかたちになっており、バッファゾーンがちょうど中間部分。従来で言うところのだいたい外郭辺りを保存指定しています。特別史跡に関しても実は現在、個人の住民の方が住んでいるということ、場所によったら住宅地でもある。そこでの現状変更の問題があります。

ただ、バッファゾーンのいわゆる景観保全と再開発、それについて結局、都市開発部門と文化財部門とでは考え方が違うし、都市開発部門の中でも景観部門と都市計画部門では違う。結局、それぞれの寄って立つ法体系が全部違っているというのが一番の問題ではないかなというのがここ何年間かで出てきています。その中で、それを全部調整できるのはやはりバッファゾーンに関して何か法的に規定したような、もしくは調整するような特別法の存在が必要ではないかなというのは前から思っていました。ただ、それを保存にシフトするのか、開発にシフトするのか、どちらのほうを重要視するのか、どういうふうにバランスを取るのかというのはとても難しく、それをどう調整するのかというのが非常に大きな問題になるでしょう。

  司会 南砺市さん、いかがですか?

 浦辻

私どもの場合は文化庁さんからも毎年多額の予算、補助金をいただいているという面がありますので、要望についてはそういう活動が文化庁さんと敵対するのではなくて、援護する、支援する。より予算づけが有利になるような、文化庁さんを支援するようなかたちで活動を持っていっていただければありがたいなというふうに思います。

  司会

それは心配ないと思います。世界遺産室長さんからも、共闘戦線を組みましょうと言われています。

文化財系の話で京都市さん、何かよろしかったら一言。


 北田

 現在、京都市のほうでも追加登録に向けての調査といいますか、可能性を探る研究会なんかを催してはいるのですけれども、一つ悩ましいところといいますのは京都の場合、有形無形のそれぞれの文化財が、指定登録されている文化財がだいたい2800件ほどございます。京都の文化財に当時、今はもうそう言いませんけれども、当時コアゾーンと言われていたのは17ヵ所ということで、それが代表選手のようなかたちで世界遺産ということを言っているわけですけれども、実際はそれに匹敵するようなところもたくさんあるわけです。

 地方によれば、その地域を代表するものが世界遺産になっているということであれば、それですごくやりやすいのかなという感じもするのですけれども、私のところの場合はその17ヵ所だけを特別視していいのかどうかというすごく難しいところがあるわけです。ですが、いま現在はことさらそうではなくて、京都の全体の文化財の中の代表みたいなかたちで、特に世界遺産だからといって取りたてて本市の文化財保護行政が何らかのかたちで特別に扱うというようなことはまずしておらないというようなことなのです。

 それとはまた別に、やはり片方では同等の資産がたくさんありますので、追加登録というようなことも最近は合わせてしているというようなことで、すごくジレンマになるといいますか、そういう流れが現状としてはあります。

  

 (災害復興)

  司会

 文化財や特別法関係はまた河野先生が来られてからも時間があると思いますので、震災、台風被害等の関係につき、紀伊半島の方々にご発言をしていただきたいと思うのですが、白浜町さんいかがですか。

 
 中尾

 台風12号が昨年の9月に上陸しまして、現状としましては白浜町には富田坂、仏坂というのがあるのですけれども、富田坂につきましては今は安居辻松峠というところがありましてそこまで行っていったん戻ってくるというような状況でございまして、所々は道がなくなったりして通行止とかになっておりまして、観光面から言って修復は早急に必要だなというのがあるのですけれども、道がすべて世界遺産に登録されているわけではないので、そういう面から補助金的なものが難しいところもあります。

 あとは、バッファゾーンと言いましょうか、そこがすぐに修復できない、そういうところもあります。やはりでも現実を見れば、なかなかこの修復にはだいぶ時間がかかるなというのが私自身のいま実感なのです。でも、やはりいま修復をしなければ観光客が離れていってしまうと言うのでしょうか、歩けないというのであれば他のところというのでしょうか、そういうかたちになっていく流れになりますので、何とか修復の方向で国とか県とかにお願いしたいなと思います。課題というのは早く復旧のほうをしたいという、それが課題だと思います。

 
 司会

 ありがとうございます。東紀州観光まちづくり公社さん、三重県側はどんな状況でしょう?

 杉下

 三重県熊野古道、伊勢路についても去年の台風12号の被害を受けて古道の石畳そのものがもう山崩れ、要するに崩れてしまってもうなくなってしまった箇所がありまして、そこはもう修復するのに2年、3年かかる、3年以上はかかるだろという話を聞いております。

 それで思っていたのは、その古道が復旧して歩けるようになった時に、それが道として歩けるようになっても世界遺産のままいられるのかという疑問というか、素朴な疑問なのですけれども、もう江戸時代に作られた道ではなくて今の道になってしまうので、そこらへんが世界遺産の部分から外れるのかなという素朴な疑問といいますか。

 宗田 そんなことはないでしょう。

 杉下 ないですかね。

 宗田 ええ。オーセンティックな復旧をすれば、もうそこにコンクリートを打ったりしたらだめですけれども、舗装した道路でも世界遺産になっているのはたくさんありますから、今回は人為的に壊したわけではなくて自然によるものですから、それはやはりオーセンティックに復元する、あるいは文化庁さんと詰めていけばいいです。いったんもうすでに登録されているものですから、それはもう戻すしかない。それで、それが事故があったり、記録は残しておかなければいけないでしょうけれども、復旧したから世界遺産の本体から外されるということはないと思うので、そういうことはあってはいけないと思います。

  杉下 やはり地元の方が心配されていたのです。

 司会

 縦割の話みたいになるのですけれども、国土交通省関係は大臣が奈良選出で、相当早く復旧のお金をつけたというふうに聞いたりしています。文化庁マターでないほうの復旧というのは相当それなりのピッチで進んでいるという感じがします。風評被害がすごいという話も去年なんかはよく聞いていましたけれども、もうそれもだいたい収まってきている感じですか。

 杉下

 そうですね。台風直後はさすがに、実際に被害を受けた横垣峠というところが致命的な甚大な被害なのですけれども、他の峠は歩けるのですけれども、「もうどうせ歩けんのやろ」という電話が結構ありまして、たくさんのキャンセルもあって前年比の70%と言われていました。今はもう勝浦のほうまでJRも通りましたし、言われるほど風評というか落ち込みは感じていないです。

 

  (観光)

 司会 観光絡みのことも話していただけましたら、何かありましたら、斑鳩町さん。


 関口

 先ほど自己紹介の時にも話をさせてもらったことと被ってくると思うのですけれども、当町の場合でしたら、登録されているものが法隆寺というお寺、宗教法人が管理しているものがもう主たるものであって、行政が地区のように管理していって、お金をかけてどうこうしていくというのではちょっとなくて状況が違うと思うのです。そういった中でやはり力を入れていくということになれば、いま井戸さんのほうからおっしゃっていただいた観光、いかに人数を増やすというのではなくて経済効果を生み出すか、そのための取組みというのが絶対に必要だと思うのです。 

平成の大合併、市町村大合併の話もあった時に合併せずにそのまま行くということで、その中でやはり生き残っていく術としては観光がかなりウェイトを占めていると思います。そういった状況の中でいわゆる独自産業といいますか、第1次産業、第2次産業、第3次産業全部を合わせた取組みが必要になってくるというのをすごく感じているのですけれども、なかなか地域の商工業者、それから業者、そういった方との連携が図れない。


 
司会 ありがとうございます。大津市さんいかがですか。


 山口

 私のところも他市さんと違って、今の斑鳩町と一緒で延暦寺さんは宗教施設です。宗教活動と思われるものに対しては一切契約できませんし、どこまで行ったらいいのだろうという話はあります。それから、ああいう山深いところにありますので市域連携がなかなかできないので、公費をかける以上は何か見返りを頂戴というような話もしていかなければいけないところもあるのだけれども、世界遺産という文化の中でちょっと一目置いて下は下でやろう、上は上で別個にしようかという話とかをいまちょっと構築しているところでございます。

 延暦寺さんもできるだけ大津市だけではなく京都にも下りておられますけれども、地域的にいずれへも行こうという考え方をようやくなさってきておられますので活用を図りたい。

ただ、市内の中にも天台三派がありますので、その辺はどうするのだろうなという思いはちょっとあります。近江八景とか違うのでもうこちらは売りましょうとかいう、もう分けていこうかなという考え方で比叡山だけ単独でということです。

 

  (ユネスコ条約40周年事業関連など)

  司会 前半の部の最後に京都市さん、11月のことに関して何かあったら、お願いします。

  藤内

 ちょっといま急きょ配らせていただいたのですけれども、12月の末に外務省から発表されまして、世界遺産条約採択40周年記念の最終会合が11月に京都で開催されるということです。そのちょっと記事を作っています。2枚目が最終会合の、これはユネスコ主催でされるのですけれども、日本では外務省が担当ということになっています。具体的には11月の6日から8日までの3日間が最終会合で、それに先立って3日から5日までユースフォーラムという30歳以下の若手を対象にしたフォーラムが開催されます。

 京都市なのですけれども、京都府、それから宇治市さん、大津市さん、滋賀県さん、それとあとは商工会議所等で実行委員会のほうを立ち上げまして、実行委員会でこれを支援するような事業をしていこうということになっています。まだちょっと内容はいま外務省等と調整をしているところなのですけれども、決まっているものとしましては6日、1日目の夜に地元の市長主催の歓迎レセプション、これも開催いたします。それから、8日の午後から世界遺産を中心とした視察です。これは外務省のほうからこの二つは絶対にやってほしいということで言われているものです。

 それ以外に3枚目のほうに付けているのですけれども、ちょっと世界遺産のツアーとかレセプションも重なっているのですが、こういったものをいまアイデアというかたちなのですけれども、考えているところです。事前に会合の開催前に市民と京都市の人たちと京都府民、それから滋賀県さんも入ってくるのですけれども、対象としたようなシンポジウムを開催して機運を盛り上げるようなことができないかなと。それから、歓迎レセプション、視察です。それ以外に日本とか京都文化の体験とか紹介、これをどこかでできないかなということで考えております。

 震災の関係はちょっといま検討中です。あとは、できるかどうか分からないのですけれども、せっかく文化庁長官とかユネスコの事務局長とかもお越しになりますので、何か意見交換みたいなことができないか。それ以外に世界遺産を中心としたポスターセッションとか映像による紹介、これは日本の世界遺産を中心としたものです。そういったものができないかなということです。それ以外に歓迎デスクの設置ですとか、記念品の提供ですとか、そういったものを考えています。

 あとは、関係団体との連携ということで下に書かせていただきまして、この連携会議、それからあとは「明日の京都 文化遺産プラットフォーム」というのが京都でありまして、これは前ユネスコ事務局長の松浦さんが会長をされているのですけれども、そこに京都府の知事ですとか、京都市長とか、京都の世界遺産の関係とか、あとは専門の先生方とかが入っておられるもので、古都京都の文化遺産を継承し、存在意義を高め、未来の文化遺産を創造するために組織されたものでございます。ここも児童とか生徒による絵画のコンクールなんかを検討されていまして、ここと連携しているということで、今はまだ具体的には何も決まっていないですけれども、こういったものを考えているということです。

 
 司会

 ありがとうございます。これ以外の周辺の観光地では姫路市さんと富山でやられるというお話をちょっと耳にしています。あとは和歌山のほうで事後の何か分科会みたいなものをおやりになると伺っていたりもします。

あとは、このツアーみたいなものも、これは外務省が採択される業者さんがたぶん主催というかたちになるのでしょうが、噂の範囲内ですが、広島と奈良は京都市周辺以外でやれる可能性があるようです。

 というところまでしか分からないのですけれども、いずれにせよもう11月のことで、夏前には当然全部決まっておかなければいけないことなので、あとは皆さんこういうことに関してもご協力、こんなことできませんかということを会のほうとしてもお願いすることがあるかもしれませんし、こんなことをやったらどうかということがまたありましたら、会としてもできるだけ生産的な議論をしていきたいなと思っております。

 この催しが京都や日本で開かれるのは願ってもないことですので、できるだけのことはしたいと思います。逆に言えば、来年度に関してはもう本当に要望活動をするというのと、この会をいかに周辺の各地域の行事も含めて盛り上げていくかというのが一番大きな眼目かなと私なんかはいま認識しているところでございます。もし他のこの件で何か情報がありましたら、ちょっとお願いしたいと思います。

浦辻さんのところは何か行事は予定されていらっしゃるのですか。

 
 浦辻

うちのほうは富山県のほうでいま計画しております。

まだ固まってはいないのですけれども、何かシンポジウムみたいな感じの……。



 司会 分科会というのは違うのですか。

 浦辻

外国の方を中心とした会議というふうに聞いているのです。五箇山のほうの下見とかいうような日程も入って、あと夜はレセプションというふうに聞いています。

 司会 姫路市さんのほうもまだほとんど決まっていないのですね。

 福永 ええ、まだ細かいことは何も……。

 浦辻 うちもまだ決まってはいないのです。

 福永 京都市さんでやられるのは外務省の指揮の会議ですね。

 藤内 そうです。

 福永

うちが話をしているのは世界遺産室、文化庁ということで、いわゆる分科会とかいうようなスタンスよりむしろ、プレ対応といいますか、文化庁のサイドから国際専門家会議を開いて、それをどういうかたちになるのかも全然分からないのですが、京都のほうで持ち込めないだろうかということで考えていると。

 それにプラスアルファして姫路市としても何か世界遺産ということでできないかなということを検討しているところなのですけれども、実はまだやっとやるという話がついたぐらいのところで細かなところは全然、私の個人的なメモぐらいしかないというレベルなのです。むしろ、ちょっと情報があれば、教えていただきたいなというぐらいのところなのです。

 
 宗田

 ちょうど先週、平泉の授賞式が16日の木曜日に外務省主催の専門家会合を開いたばかりでしょう。それが済むまでは11月の件は具体的に決まらなかったのです。

 要は、地元自治体のほうから当然費用もかかることなので、何か市民向けの何とかとテーマとかを先に提案してこられたら困る、テーマはこちらで決めるからというふうなスタンスでいるものだから、ちょっと体制が決まるまではなかなかおっしゃらないところだろうと思うのです。たぶんちょうど今日あたりから具体的なあれで動いているかもしれません。先週までとにかくそれでいっぱいでした。

 
 司会

 年末近くまでまだ分からない事だらけでしたが、少なくとも京都、姫路、富山、和歌山では予算含めてお考えだということですから、これからどんどん固まっていくんでしょうね。

 
 宗田

 そうですね。だから、外務省も先週までは忙しかったのでしょう。何も言ってこなかったけれども、たぶん今晩あたりからガンガンまたメールが来てユースフォーラムはどうなるかとか・・・。

 

 司会

その他どんなことでも結構です。せっかくの場でございますのでご意見をちょうだいできればと思います。あるいは、それぞれの中でどんなふうにこれをやっていますかとかというふうなお話でも結構ですし、また会としてもう少しこんなことをしようよとかいうふうなお話でも結構です。

 

 北村

 この40周年ですね、ぜひ地域連携会議と、この先ほど趣旨の説明を申し上げた地元の実行委員会と連携をお願いしたいのですけれども、その時に国から言わせると文化遺産だけではなくて自然遺産もあるのです。このたびのメンバーとしては文化遺産ということで集まっているとは思うのですけれども、連携という意味で言うと文化遺産だけですと言うと文化庁なり外務省から見ると不満が残るので、その部分だけでも何か四つの自然遺産にお声掛けいただくようなことというのは……。

 

 井戸

 いや、僕もお声掛けするのは全然あれなのですけれども、変なつまらない話ですけれども、会の構成上、パネル展示をするのでも文化遺産の中だけでしか作っていないのです。なので、では知床の部分はどうするのかとかという問題はあります。ただ、お互いそういう今から大掛かりな作業が発生しない分野でできるようなことであれば、お声掛けするのは全くやぶさかではないです。

 
 山口

 うちのところに言ってきているのも文化遺産だけではないよねということで自然遺産も含めて、ユースフォーラムでもそうですね。まったく自然遺産を行くのは難しいにしても、それに似たような里山であるとか、そういう自然系も含めたユースフォーラムとうのはやはり必要だというようなことなので。

 北村

 文化遺産だけだと、国からこの連携会議は言葉は悪いけれども相手にされない可能性があるので、自然遺産の四つが入っていないと契約上の位置づけとかとは別にして、一体として同じように自然遺産も・・・。

 
 北田

 そうですね。今度来られるのは文化、自然両方とも合わせたところから、日本のパネルすら自然がないということではちょっとあれですね。

 
 井戸 それはもう自然遺産のパネルを寄せればいいといっただけの話ですから。

 
 北田 そうですね。

 

 

  (九州大学・河野先生のお話:イタリア「世界遺産特別法」について)

 

 司会 さて、河野先生がお着きになられました。宗田先生のほうからご紹介をいただけますか?

 
 宗田

 河野俊行先生は九州大学の大学の教授で、法律家というだけではなくて、ご専門は先生は私法ですよね。

 
 河野 はい。

 
 宗田

 私法のご専門なのですが、ドイツ語、フランス語、英語がご堪能でということからも分かるように、海外、ヨーロッパの法制度の研究をずっとされてきた方です。文化遺産の世界で法律の関係の人は大変少なくて、ちょうどイコモスの理事になっていただく時も大変貴重な方だというのでもうかれこれ20年ぐらい前からもう名前が出てきて、案の定、理事になっていただいて以降、大活躍されています。

 いまイコモス本部の執行委員についこの秋になっていただいたばかりですが、それ以前にもこの世界文化遺産、自然遺産のことについて、無形を松浦事務局長が日本政府を通じて登録する時に河野先生がいたから日本政府はというか、日本の文化庁はイニシアチブを取れたと言っても過言ではない。その意味では日本で唯一、制度面から、法整備面から非常に深い文化の価値をどう見るかということを含めまして、一括してちゃんとご覧になっていただいている、貴重な方です。

 今日は遠いところをわざわざ京都までお越しいただくのは大変恐縮だったのですが、河野先生が一番最初にお話しいただければ、先ほどから話題になっている国、文化庁、環境省、それから自治体とどういう役割分担をするかという考え方、場合によっては今ある文化財保護法だけでは足りない部分、それから都市計画法でどう補っていくかという点で、この地域連携協議会の話題としてこれからご指導いただきながら数年かけて考えていく問題だと思うのですけれども、最初にどう見るべきかというところを河野先生から教えていただいて、世界はどうしていくか、日本はこれからするかという根本的なお話がいただけると思いまして今日はこういう席を設けた次第であります。ちょっと長くなりましたが、よろしくお願いいたします。

 

 河野

 過分なご紹介を預かりまして大変恐縮しております。

 それでは、簡単なパワポのスライドを作ってまいりましたので、それでご説明します。私に今日頂戴いたしましたテーマはイタリアの2006220日、法77号というものでございまして、それに関する概略をご説明申し上げることでございます。

 初めに申し上げておかなければならないのは、実はお話を頂戴いたしましてから資料を探したのでありますが、私はイタリア語を解しませんこともありまして手に入る資料が実に少ないのでございます。一応、法律の英文訳がユネスコのサイトに載っておりますが、正確なところは保証しないと書いてございまして、これとあとはイタリアのレンゼリーニさんというシエナ大学の先生が書かれたごく簡単なものをベースにしたものでございます。本当にご紹介以上を出るものではございませんので、そこをご了承いただければというふうに思います。

 

 まず、この法律の背景でございますけれども、いわゆる世界遺産条約は国際法では自動執行条約ということがございまして、これは国内法の担保を必要としない条約でございます。つまり、条約があればただちに国内で法規範として意味を持つと、法規範としてそれで国内のいろいろなものが拘束されていくというものがございますが、それではなくて、あくまで国内で執行法を作ることを必要といたします。

 ユネスコの条約には例えば、1970年の動産の違法取引に関する条約がございますが、これも自動執行条約ではございませんで、日本が批准するにあたりまして日本は国内の法整備をいたしました。それ自体はいろいろちょっと欠陥のある法律だと私は思っておりますけれども、各国がどういうふうにですから、執行法を整えるかによって条約の実効性が決まっていくわけでございます。

 

 イタリアは1977年に世界遺産条約を批准しておりまして、批准のための法律を1977年法、要は46日の法律184号というかたちで作っております。この1977年法の英語訳がちょっと見当たらなかったものですから、これは実は孫引きなのでございますけれども、このレンゼリーニ先生のペーパーによりますと、この1977年法できちんと対応しなかったところがあると。それを遅れること三十有余年になって、というか2006年の法律ですから29年ですが、30年たって手当をしたというのがこの2006年法のようでございます。特にここで、実は5ヵ条しかない法律なのでございますけれども、マネジメントプラン、管理計画についてはっきりと国内で体制を整えたというのがこの法律のようでございます。

 

 まず、概要を条文ごとに簡単にご説明を申し上げたいと思います。まず1条は、この世界遺産リストに記載されましたイタリアの遺産が極めて象徴的な価値を持っているということをうたい上げた規定でございます。イタリアン・ユネスコ・ヘリテッジというふうに英語ではなっておりますけれども、要するにイタリアから推薦されまして世界遺産リストに記載されたものの総称でございます。

 そこにはユニークネス、他に類がないとか、それから、ポインツ・オブ・エクセレンスという英語で言う言葉を使っております。イタリアの文化遺産から景観から自然遺産の頂点を成すものであるということ、それから国際的なレプリゼンテーション、国際的な代表性を示すものということで極めて高く国内的にも評価ができるものというくくりをしております。他の遺産との上下関係がこの条文からどういうふうに出てくるのかというのは、ちょっとこの1条の文言を見る限りはいわゆる法的な序列関係というのは分からないわけでありますけれども、少なくとも極めて高らかに価値をうたい上げているということが言えようかと思います。

 

 それから、次に2条でございますが、これは条約の4条に対応するものというふうに理解されるようでございます。条約の4条には保護・保存、それからプレゼンテーション、ちょっと一応、提示と訳しておきましたけれども、それから次世代への継承を図る一般的な義務が加盟国には課せられているわけでございますけれども、それに対応するものというふうにこの2条は位置づけられております。このいわゆるイタリアから上がっていった世界遺産の保護と修復のためのプロジェクトは他の文化的遺産、それから自然遺産に関する類似プロジェクトよりも優先されるという、プライオリティという言葉が書かれております。

 これは実は条文から見ただけでははっきりとそれがちょっと読めないのではございますけれども、レンゼリーニ先生のペーパーでは特定の資金による財政の裏打ちがあることが条件になっているという、そういうふうになっております。いずれにしましてもプライオリティというのが条文の表題に上がっております。

 

 次に3条で、ちょっとこの辺は字が小さくなって恐縮でございますが、この3条は英語ではマネジメントプランズという、管理計画という表題が付いております。まず1条でこのイタリアの世界遺産サイト、世界遺産の保存、それから価値確保のために適当な管理計画を策定かつ認可するということが書かれております。ちょっとこの英語の表現ですと、“are approved”というふうになっておりまして、普通は法律用語ではshallとか、わりに何々しななければならないというかたちの書き方をするのですが、ちょっとその書き方としては命じているというよりは認可されるという、そういう書き方になっています。

 

 それで、その次に管理計画でございますが、管理計画の中の具体策、具体的な措置ですが、これはインターベンションという言い方をしております。これは原語がイタリア語のインテルベントという言葉をそのまま訳しているようでございまして、このインターベンションという英語が果たして適切かどうかちょっと私も定かではないのですが……。

 

 宗田 インテルベンションというのは公共事業です。

 

 河野 分かりました。その優先順位、その施行方法、行使の資金獲得のためのアクション、それから地域の観光システムと保護地域の計画を規制するなどの法的ツールとその他のプログラムというそれとの関係を、つまり、もう一度申しますと事業の優先順位と施行方法、金の取り方、それから法的なツールやプログラムとの関係を管理計画の中でしっかり定義しろというふうに書いてあります。

 その管理計画を策定するにあたっては一定の様式と方法に従うべしと、これは形式をどういうふうに取るかということのようでありますけれども、管理計画の策定と関連した工事の実現に管轄を有する公的組織間の合意については2004122日付命令42号による様式と方法によるべしと。これをコードというふうに言っています。このイタリアの文化省のホームページを見ますと、この様式がアップロードされております。

 この3条は条約の5条を受けたものであるというふうに理解されているようでございまして、加盟国は可能な限り、また適当な時には遺産の保護を包括的な計画プログラムに統合するべしという規定がございまして、それを受けて管理計画を作るわけでございますが、その管理計画を作らなければならないというところをこの3条で初めて法的に担保したということになるようです。

 

 次は4条でございます。ここでは具体的なサポート・メジャーズというふうになっていますが、そこは保護の措置というふうに訳していますけれども、もう少しサポート・メジャーズ、これは恐らく4条措置と書きましたけれども、これは補助措置とでも申しますか、管理計画を作るにあたって周辺でやらなければいけないようなことについてここに書いてあるということになるかと思います。

 基本は持続性ある観光ということのようです。この実は持続性のある観光という言葉そのものは出てこないのですけれども、この文言からそれが読みとれると。つまり、遺産の管理をして、観光と文化的サービスの、これは英語ではカルチュラル・サービス、恐らく広くとらえれば遺産を保存してそれを今度どういうふうに見せるかという、そちらのほうの見せるほうですが、お客さんに対してどう見せるかというところが補助的サービスに入ってくるのだと思いますけれども、それをバランスの取れた関係に置くというのがこの4条の目的のようです。

 

 そこにいくつか列挙が挙がっておりまして、まず一つは文化的、芸術的、歴史的、環境的、それから科学的、技術的な課題の検討を行なう。これは条約の3条、5条のA項、5条のC項というのがございまして、それを比較的文言に忠実にどういう課題があるかということを検討することを求めております。

 それから、次のB号とC号はこのAのいわば補助的なものといいますか、A号を補充するものでございますけれども、この初めの文化的アシスタンスというのは意味がよく分からなくて、英語ではカルチュラル・アシスタンス、それからイタリア語ではアシステンツァ・コントラーレとなっていまして、これが何を意味するのか、この文言だけではちょっとよく分からないわけであります。

 その後に続いておりますのはホスピタリティ・サービス、これはホテル業なんかのこと、ホテル・レストラン業を包括して英語でホスピタリティ・サービスと申しますので、あるいはホスピタリティ・インダストリーと申しますので、そういうことが入っているのだと思います。文化的アシスタンスというのはひょっとすると何と申しますか、標式とか、あるいは表示とか。

 

 宗田 それもあるし、博物館も入るし、観光案内所も入るし、ボランティアガイドとかも入る。

 

 河野

 そういうことですね。たぶんそうですね。それから、清掃とかゴミ処理、モニタリング、安全確保のアレンジ、こういうものをアレンジするべしと。それから、近隣エリアの駐車場と移動システムの準備を整えるべしと。ただし、遺産に対する影響を与えてはいけないということが書かれています。まずこういうことをやれということです。それから、もう一つは教育機関におけるイタリアの世界遺産に関する情報の伝搬と、それから意識の向上と、これが条約の27条に大きく出たものであります。

 

 それから、2項につきましては行政的なお話でございますけれども、文化遺産活動省だけの決定ではだめで環境省とか、あるいは国家と地域、関係協議会というのがあるようでございますけれども、そういうものときちんと合意を図った上で、それで最後は文化遺産活動省の命令で決めるというふうになっております。

 C項と申しますのは、この近隣エリアの駐車場あるいは移動システムの問題につきましては5条で諮問委員会について言及されておりますので、そこの同意を得るべしというふうに規定されています。

 予算措置につきまして、この4条ではわりに詳細に書かれておりまして、措置のACE、つまり、諸課題の検討、周辺のいろいろなサービスの充実、それから教育です。これにつきましては毎年350万ユーロ、2006年から3年間かけると。それから、措置B、これは文化的なアシスタンス諸々、清掃諸々でございますが、これについては2006年に50万ユーロ、2007年と2008年については30万ユーロというふうになっておりまして、2009年以降はこの1978年法というのがあるようでございまして。ただ、これは恐らく現在イタリアは文化予算をバシバシと切っておりますので、これはかなりな減額になっているのではないかというふうに推測されます。

 

 それから、最後の条文でございますが、2003年にイタリアの世界遺産管理計画及び地域観光システム諮問委員会というのができたようでございます。そこにこのイタリアの世界遺産に関する意見を述べる権限を付与したと。この2006年法の法律の執行に関して、特に専門家であろうかと思いますけれども、意見を述べる権限を付与して大所高所の意見をそこからもらえるようにしたというふうなことでございます。環境省からも3人の委員が出ているということでございます。

 これは条約5条のE号を受けた措置であるというふうにレンゼリーニ先生のペーパーでは書いてあるのですが、本当に、この5条はトレーニングのためのナショナルセンターあるいは地域センターを作るべしというふうになっておりまして、これが諮問委員会のことなのかどうか私はちょっと部分的にはちょっとあまりしっくりこないのですけれども、少なくともレンゼリーニ先生は条約の5条のE号を受けたものであるという整理をしておられます。

 

 実は今日お話申し上げるのはここまででございまして、実に簡単な5ヵ条の法律でございます。私はこの法律を頂戴して、それで勉強いたしますまではイタリアに数ある遺産の中から特に何と申しますか、クレーム・ド・クレームと申しますか、本当に頂点のものだけを取り上げて特別の手厚い予算保護をしているという、かなり特別な思い切ったことをやっているのかと思ったのでございますけれども、どうやらこれはむしろ、30年間すべきことをしてこなかったことをやっと整えたという、そういうもののようでございます。

 ですから、日本の目から見ますと、管理計画をしっかり作って実務に落としていることから考えますと、つまり、逆にこれができるまではこのイタリアの世界遺産も、例えば、世界遺産になっていない他のモニュメントだとか、そういうものともうまったく一律に扱っていたのかなという、そういう感じがいたします。やっとここで何かキャッチアップしたという、そういう印象をこの条文を読み込み、かつペーパーを読んだ限りでは一応、思った次第でございます。

 

 

 (質疑応答)

 宗田

 先生、ちょっと議論させていただきますけれども、日本の管理計画とイタリアの管理計画は比較にならないぐらい違いますね。つまり、まずイタリアは世界遺産を特別に扱うことはしませんでしたが、都市計画関連法で土地の所有権というのはほとんど認められていないです。文化財行政は地方分権がありますけれども、文化財担当局が憲法でその地位を保証されて、国家に命令できる独立した権限を持っています。

 ですから、このご指摘のとおり第3条の管理計画というのは、世界遺産に登録されたことは他の地域でも都市計画とかいろいろな規定があるとは言うものの、世界遺産は各州に分権せずにここだけは全部国家の委員会の下において、管理計画を作ったら、管理計画に書いていなかったらあらゆる公共事業、それはもちろん道路だろうが、電信、電話だろうが、病院、生命に関わる防災計画だろうが、やってはいけないのです。

 教育から文化、博物館とか学校の修学旅行のツールも世界遺産のことをきちんと理解した上で管理計画に書いてある、マニフェストに書いてある内容に則してから決まってくるというわけです。先ほど例えば、姫路市さんのお話の中で文化財と都市計画がそれぞれやっていることが違って、かなりちぐはぐなことがあるとおっしゃっていましたが、そんなことは絶対にないですね。

 

 河野 はい。

 

 宗田

 管理計画にバッファゾーンの規定があれば、もう都市計画はそれに従うしかないわけで、例えば、姫路城があるのだけれども、その周辺に京都市でやっているような高度地区を決めていないとかいうことは絶対にあり得ないです。でも、世界遺産だったら、もう当然バッファゾーンを含めて市域全体に高度地区がなっていて、それで姫路城という世界遺産を目立たせるようなというか、守れるような高度地区の設定、あるいは眺望、景観が守られる。そういうものを作れというのが今までなかったわけです。それを作りましょうと。

 もちろんご存じのとおり、マネジメントプランはユネスコ世界遺産センター、世界遺産委員会から議論が出て、それが世界に発信してフランス、イギリス、イタリアあたりがわりとまじめにきついマネジメントプランを作りました。日本は現行法を何とか運用するかたちでいま紀伊山地でやったりとか、ご存じのとおりの状況になっている。

 まずそこが大きく違って、いろいろな法体系を持っているそんなイタリアでも、この管理計画に関してはこういう法的根拠を作らないと地方分権でできない。最後の5条もまったくそうですが、チロル地方は特殊なところなのでそこは別としても、それ以外のイタリアでは文化財行政は州政府に権限移譲されているのだけれども、これに関しては国の委員会で世界遺産の取り扱いになっておりますということだと思うのです。

 だから、確かにフランスとかイギリスと比べると相当遅れているとは言うものの、このマネジメントプランの話と、あとは先ほどもちょっと申し上げたのですが、予算に関してはオリーブの木とポーロという二つのベルルスコーニと反ベルルスコーニ派の政権交代があったりしたものですから、そのたびに文化庁長官が替わったりしますので、法律を作ってもらわないと予算措置ができない。いまおっしゃったことですが、そういう予算措置をしても今の財政危機の中では当然削られますよとなると、そういう状況があったということも、もう一つの側面としてあるかなと思います。

 それで、日本は先生、どうすれば。

 

 河野

 一番は、先生がおっしゃったように都市計画のところと文化財の保護のところがもう少し融合しないと、特にバッファゾーンなんかのことを考えますと、景観のことを考えますと、少なくとも意識がもう少し高まらないと……。

 

 宗田

 そうですね。景観法ができて歴史まちづくり法ができましたので、文化的景観に関しましては景観法、文化財保護の改正法をもって、仲良くできるように文化庁と国土交通省と手をつないでいるという、歩み寄ってきてそういう制度ができましたというところがあるわけです。

 さらに、だから、景観法による景観計画区域の中で特にその措置のあるものを文化的景観という文化財にしましょうという部分なのですが、せっかくそこまで文化財としての文化的景観と都市計画との関連性で景観法で結局、一致したわけですから、次は世界遺産だけくくってきて、世界遺産に関してはこの国内法でバッファゾーンというものを規定して、そこで景観法で言う都市計画の環境を整備していって、そこではこういう規制ができるというような、そういうステージが次にあるのかなと私は思っているのですが、可能でしょうか。

 

 河野

 可能かと言われると、それは不可能なことはないと思うのです。不可能なことは何もないと思うのですが、あとはですから……。

 

 宗田 そういう制度が必要だとは皆さん思っていらっしゃると思うのです。

 

 河野 思いますね。

この間、世界遺産をコアにしていわゆる遺産とそれを取り巻く都市景観と周辺、それをゾーンとして保護というのはいいと思うのです。いきなり保護法と、それから景観法、都市計画法というのはたぶん難しいと思うので、文化遺産からやるというのは実際にいいかなと思っています。

 

 宗田

 文化財保護法のほうでの周辺地域の規制をということは文化庁さんがご検討になっていますよね。

 

 河野

 はい。そこへいきなり行くとすごく大きな話になるので、世界遺産からというのは……。

 

 宗田

 そうですね。それは記念物課とかがしきりに言っていることだし…。

 

 河野

 はい。取っかかりとしてはいいかなと思います。世界遺産だけにいろいろな力やお金を集中してというよりは、そこから文化財保護行政にずっと一般にしみわたっていくようなプラスがあるという、ここから始めて広く良くなりますよというのが出てくると……。

 

宗田 波及効果がね。

 

河野 はい。

 

宗田

いわゆるディフュージョンが起こるといいと思うのです。ただ、個別の自治体との関係で言うと、このイタリアの法律もそうなのですけれども、最初に規制したところに予算を立てるのだそうです。世界遺産はプライオリティが高い。したがって、管理計画も非常に厳しくかかる。その代わりに予算措置をするというようなアメとムチの関係で引っ張っていって、それで世界遺産に手を挙げる、登録したいという自治体は他の自治体よりも先に管理計画を用意しなさい、そうすれば、予算もつくし、選択していくという本来のイコモスがよく提唱するような世界遺産をえさに文化財保護を進めていく、行政等を発展させてくるというような道筋に行くと思うのです。

 そうしないとどんどん観光開発で規制は嫌、でも補助金は欲しいというようなほうに流れるでしょう。

日本でもたぶんそういうアメとムチを使いながら引っ張ってくるという戦略はあると思うのです。

 

 司会

せっかくの機会ですので、ご質問がある方はどうぞ。

浦辻さん、若槻さん、いかがですか。何かございますか。

 

 浦辻

 ちょっと何か、これが日本に入った時にどういうふうになるのかなというのイメージが十分にまだつかめないのです。

 

 宗田

 白川郷を例にとると、そもそも管理計画をユネスコに提出する代わりに駐車場は作っていいことは決まっているわけです。それまで含めて地元の合意、これを得た上でなければ管理計画は提出できないです。それで、本当はすごいことをユネスコから言われているのだけれども、それを文化庁さんがひた隠しにして、とりあえずものすごく軽い管理計画を出してごまかしているので、そのうちモニタリングとかが厳しくなったら…。

 それがそもそも日本では公法と私法の関係で土地の所有権を大幅に認めているということに尽きるのです。だから、世界遺産に登録することによって世界遺産の横にただ土地を持っていても他の土地の所有者とまったく違うのだと、木1本勝手に切れないのだという、そういう常識が普及すればいいのですけれども、欧米法にはかなり厳しい規制があります。

 

 北田

 いま記念物課の話がちょっと出ましたけれども、文化庁のほうで文化財保護法で何らかの緩衝地帯、バッファゾーンのところの規制をかけるというような動きもあることはあるわけですか。

 

 宗田 はい。

 

 北田 それは保護法をいじらないとできないですね。

 

 宗田

 そうです。必要です。つまり、韓国の文化財保護法ではバッファゾーンを決めているわけです。だから、朝鮮王朝の古墳群やる時もしっかりとバッファゾーンがあったわけです。今はもうつぶしている。そもそも韓国の文化財法というのは日本からかなり影響を受けているコピーみたいな法律なのに、韓国ではできているのになぜ日本はやらなかったのだということが言われだしたのです。

 

 北田

 京都の場合は都市計画のほうで幸い古都保存法とか、そういったものの網が厳然としてありましたから、宇治もそうですけれども、それを利用したようなかたちです。文化財保護法独自の規制というのはないです。ですから、先ほどおっしゃったように私のところのほうも各所有者のところに行くにあたっては、今までの規制より何も変わることはありませんよということで了解をもらっているというのがだいたいほとんどそうなのです。文化財保護法では。景観法ではだいぶ変わってきているとは思います。

 

 宗田

 でも、今度追加登録するところにはそんな話はしないでしょう。これから追加登録するところはもうその後は新景観条例からこの間の新しい景観政策まで含めてずっと長い歴史があるので、今回は当然一段厳しい規制をかけて、では追加登録をやりますよねという、そういう論理ですよね。

 

 北田

 ええ。ただ、当市は例えば、仮に社寺としますと、社寺を追加登録するとしまして、もうそこは完全に境内しか文化財保護法の網にかかる、あるいは国宝なり、特別名勝史跡であるというところが前提ですので、いまある国内法よりもかなり世界遺産にかかることによって、何らかの世界遺産法ということでかかるわけではないという、ここはもう同じことですね。

 

 宗田

 そうです。ただ、当然、世界遺産の場合バッファゾーンを厳しく言われるので、今後登録に際して今ある規制を一段と厳しくしないとだめかもしれませんよ、周りの住民の方にそれをご理解いただいていますよねということを言ったほうがいいですね。

 

 北田 そうですね。

 

 宗田

 眺望景観条例がかなり厚くかかっているので、実質的にはある意味やっていますし、追加登録するのももうすでにいくつか入っていますから、そういった意味では京都の場合は先手を打ってあるので具体的には何も問題がなかったと思います。

 

 司会 若槻さん、いかがですか。

 

 若槻

 古都保存法というのはやはり一つ先行事例と考えてもいいのかなという気はしているのですけれども、他の世界遺産の場合は古都保存法がないのです。ですから、バッファゾーンというのはもう完全な市の条例であったり、景観だけは規制しているというのがせいぜい今は現状だと思うのです。ですから、それではやはり不十分だろうというところが問題なのです。

 それを文化財保護法の改正によるのか、新たな古都保存法的なものを新たな世界遺産の場合には考えていくのか。やり方としては二つぐらいの方法があると思うのです。ただ、保存法はかなり広いのです。非常に広いのです。だから、平泉の場合だったら、平泉町全域がバッファゾーンになっているのです。そのあたり現実的にどこまでのことができるのだろうかというところがですね。

 

 宗田

 あれも昔は京都とかをやる時はバッファゾーンでよかったのです。それの今日の議論でもあれですが、世界遺産登録自体が非常に厳しくなってきました。その間に競うようにいろいろな国がバッファゾーンを広げてきたのです。だから、2000年のアッシジ市の登録の時なんかは市域全部を本体にして、バッファゾーンを駅とか公共地域だけにするというとんでもないことをやったわけです。本体をバッファゾーンが囲っているのではなくて本体がバッファゾーンを残しているみたいな、あそこまでやってしまって規制をかけるということを競いだしたのです。

 それで、日本も従来のやり方で耐えきれなくなって、石見銀山あたりが苦労してきて、無理矢理やるぞと、ご無理をお願いするかたちになってしまったわけですが、それが本来のやり方なので、さあ、これでと言って戻ってきた時に最初に登録した法隆寺とか姫路市とかが管理計画をまともにやったら、そんなものはガンガンとイコモスから言われることになります。

 ご指摘いただいたように、古都保存法というのは歴史的にみると特別保存地区に関しては買い上げの制度があって、国の手当というのがあるわけです。京都市もずいぶんそれのお世話になっているわけで、先ほどの駐車場の話もそうだし、熊野古道の話もそうなのだけれども、そういう部分に関しては規制するのだったら、国がそれは100%か50%というような…。

 

 北田

 古都保存の特別地域というのはある意味、文化財保護法よりももっと手厳しい規制ですので、あれはバッファゾーンとは言えないぐらいの規制がかかりますから。

 

 宗田

 ただ、世界遺産に関しては古都ではないけれども古都保存法と同じ扱いで本体は歴史的景観である、世界遺産特別保存地区として、その中で現状変更が必要になった場合は届け出を要するというようなことですね。それをバッファゾーンに広げるかどうかです。

 

 若槻

 だから、それをやりだすと今度はバッファゾーンの面積を決めた時にもう1回戻って、あれでよかったのかなということになると思うのです。もうちょっと狭めないと現実的に不可能ではないかとか、バッファゾーンの中でもここの地点とここの地点をそういうふうに何かこうするとか…。

 

 宗田

 そうです。それは広い地域での話です。狭い京都とか姫路あたりだとバッファゾーンは何の問題もなくて…。

 

 ○○

 例えば広島の原爆ドームの周りのマンションは持ち主が規制反対、なおかつ、今度規制が強化される・・・そういう問題が出てきますよね。

 

 宗田

 いやでも、京都の景観白書をちょっともらってもらえませんか。せっかく河野先生がお越しになっているので、景観政策関連。京都で高さ規制を厳しくしましたね。その白書でずっと分析したのですけれども、全然下がっていないのです。 住宅着工数も減っていないですし、マンションはもう確実に値段が上がります。

 

 ○○ それは供給が減るからですか。

 

 宗田

 供給が減るということ。だから需要供給のバランスだと思います。それから、いま既存不適格なマンションなんかは隣にもうそういう高さのマンションは建たないことになりましたから、いま窓から見える景観はそのまま残るわけです。

 

 ○○ 今度は建て替えられないのですよね。

 

 宗田

 規制したからと言って決して、まず景観にまったく関係なくても12階建てのマンションだったら平米単価が100万円だったけれども、それが8階建てになったら120万円になる、4階建てになったら200万円になるという作用が働くわけです。そもそもそれは例えば、駅からの距離とか周辺の商業環境とかというのでそこの地価が決まっているのであって、その地価を薄めて売れば安くなる。コンパクトにまとめて売れば高くなるという需要と供給の関係がありますよね。

 マンション業者さんはそれに建築コストを入れていくわけです。当然、12階にしたほうが1戸当たりの建築コストは下がるものだから、利益幅がその分大きくなるわけです。だから、もうけようと思えば、できるだけ大きな箱を作ったほうがそのデベロッパーは建築でもうけていますからいいわけです。

 でも、確実に不動産を考えていくのだったら、小さく作って高く売るというやり方もあるのです。でも、建築屋さんはやはりお金を稼ぐわけです。京都はそれを11個明らかにしていって、別に建築屋が泣いてもいいのだと、不動産屋はもうかる。もともと地権者はそれでも十分同じお金が入る。建築屋にだまされて12階建てで100室作る必要はなくて、そこら辺をみんな辛抱強くデベロッパーとけんかしないのです。京都は幸いけんかしたので。

 

 司会

 これから日本型のものをこれは考えていく時に、バッファゾーンをどうするとか、古都保存法その他との関係をどうするとかといったこと以外に、日本独特の小技みたいなものを特別法の中に入れ込んでいくというのは当然ありですよね。

 
 宗田 そうでしょうね。

 
 司会

 人づくりの話とか、実際特に広域敵な地域が困っていらっしゃるようなモニタリングの費用がないといったこととか、200万円の縛りがあるので全部地元持ちだとかいうこととか。そういうものに関して、世界遺産の地域に関してはもうある程度国のほうで、というような枝葉の部分も入れ込んだものにしていくということもありますよね。

 
 宗田

 いや、それがまさに本当のあれになるのかもしれませんけれども、いずれにしろどう法律を書くにしろ河野先生にお世話になって書いてもらわないといけない。おっしゃるように文化庁さんにとって当然有利になるような法律でなければだめだし、文化庁の従来の予算とは別に世界遺産議員連盟か何かが世界遺産の枠を作ってもらって世界遺産室もできたわけだし、そこがもう少し大きくなっていってということです。

 
 司会

 今日は紀伊半島からもお越しですけれども、いざとなった時の措置というのもありますね。

 

 宗田

 そうです。災害があります。紀伊山地なんかは、僕は国交省の道路局の社会資本整備審議会の道路部会でいわゆる箇所付けの仕事を毎年するのですけれども、例えば近畿整備局管内で言うと和歌山県というのは予算がつかないところなのです。だから、毎年年末になると調整して小さい仕事をポロポロッと今までも探していたのです。奈良県でもそういうところがあるのです。結構大きな工事があったらその年は大丈夫なのだけれども、都道府県ごとの予算を整備局の幹部が配分する傾向がある。だから、今回の災害のような、台風のような場合はわりとつきやすいのです。

 でも、それは本当に地域でマネージしているので、世界遺産でマネージをまったくしていないのです。そこは何か世界遺産なので、整備局のほうで和歌山県と奈良県に関しては最初から一定枠を、全体の整備局の予算の5%とか3%かよく知らないけれども、それは道路でも河川でも何でもいいから世界遺産の整備につけるとかいうような配慮を、それで国交省、国の予算に回してもらうとかされたらいいですよね。そういうプライオリティ予算なので、社会資本整備の中にちょっとうたっていただければと思います。

 

 司会

 姫路市さん、聞いておくことは何かないですか。一応、もうお時間が来ておりますので、もし最後に何か先生にご質問とかがある方がいらっしゃったら、挙手をお願いいたします。

 

 北村

 この世界遺産特別法の日本国内における熟度といいますか、関係者の思いというか、それはいまどんな点にあるのですか。いまこの部屋で非常に熱い議論があるのは分かるのですけれども、文化庁であるとか、イコモスの国内委員会であるとか、そういう日本におけるこういう特別法の必要性についての……。

 

 宗田

 いや、まだまだこれからでしょう。文化庁さんのほうが文化財の周辺、緩衝地帯に関しての関心を持っていま調査に入っていることは事実です。そのことと世界遺産はまったく別です。話題に世界遺産立法というのがあるよねという、予算に関して文化庁に相談したのですね。それはいいかもしれないけれどもというぐらいの話ですが。あまりいい反応ではないですか。

 

 司会

 いやいや、悪い反応はないです。一緒にやりましょうねという感じです。

 

 宗田

 あとはだから、議員さんとかにもっと持っていったら関心を持ってくれる方もいる、まだいずれにしてもそういうレベルです。ただ、だから、この席でお集まりの皆さんがやる気があって今日の席で前向きに行こうというのだったらこの話はあるけれども、皆さんが「もう関心ない。帰る」と言われたら、河野先生と私はすごすごと帰っていくしかないです。

 

北村

都市計画での手法というのももちろんあると思うのです。その中で文化財保護法の中に入れ込むのがいいのか、そういうバッファゾーンをおうのにですね。我々は京都におりますと、やはり都市計画という手法のほうがより幅広くできるのではないかなというようなイメージがあります。

 

宗田

そうです。そのことがあったので景観法ができたわけです。

 

北村

ええ、そうですね。

 

宗田

そもそも景観法は京都市が文化財と都市計画を上手に使って、条例で、美観地区というものを景観条例で保存をやっていきましょうと、先ほどおっしゃったまさに効果がありました。だから、文化財を含めた歴史的環境を守るためには景観及び都市計画を作る必要があるということで岸田里佳子さんが景観法をお書きになったわけです。だから、本省に戻られてその後、いま副市長で来られている由木さんがご担当で歴史まちづくり法を、その前の毛利副市長、由木さんのラインで歴史まちづくり法ができたわけでしょう。

 さらに、もう一歩進めて、そこで都市計画と文化財保護を融和させる世界遺産立法というのを作り、あるいはそれを作ることによって景観法を一歩進めて、いま日本国内の世界遺産をお持ちの都市に広げていきませんかということです。だから、たぶんご指摘のことをちょっと拡大解釈すると国交省のほうが乗ってくるかもしれないです。

 

 北村 なるほどね。

 

 宗田

 由木副市長は何とおっしゃっているのでしょう。由木副市長にもこの話をしたらわりと乗り気なようなニュアンスでした。

 

 北村

 ああ、そうですね。

 

 宗田

 由木さんはだから、本省に戻られたら、また前の都市計画課長さんになって、今度はいよいよ審議官になられる可能性のある人ですね。

 

 司会 ちなみに、今年の活動予算は毛利さんのおかげです。

 

 宗田 ああ。毛利さんも…毛利さんはいまどういうあれですか。

 

 司会

国交省・地方計画局の審議官だったと思います。

それでは、特にご質問とかがないようでしたら、最後に先生方からお一言ずついただいて、今日の会を終わろうと思います。

 

 河野

 先ほども申し上げましたことですけれども、世界遺産を大事にすることは日本の文化遺産の保存全体の底上げにつながるというスタンスが大事かなというふうに思います。

 

宗田

いろいろな先生がお集まりくださって世界遺産を通じて日本の文化遺産のほうが前に進むようなかたちでいかないといけないので、世界遺産をお持ちの自治体の皆さんの役割というのは非常に重要だと思います。地域の文化遺産を大事にせずにこれからの日本の発展はないと都市計画屋として思っていますので。

 

 司会

最後、皆さんよろしいですか。

それでは、今日の勉強会はこれで終わらせていただきたいと思いますが、今日をスタートに皆さんがどんどん情報交換ができるようになって、少しずつ世界遺産の連携会議が作ってよかったなと言われるようなものになっていけばと思っております。

また、各地域がますます各地域らしく、世界遺産を軸にして発展を遂げることを祈念いたします。

後ほどまた懇親会もございますので、ぜひその場でもざっくばらんに意見交換をできればと思います。

本日は河野先生、宗田先生、本当にありがとうございました。(拍手)



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